壱朝零夜:暁の娘

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 だけども、そんな彼も、もうここには居ない。  今日の私と同じように、二年前に旅に出たまま戻って来なかったからだった。  それは悪い意味ではなく、良い意味で。  彼は旅の途中で良い働き口を見つけたということだ。  私が旅に出たら、彼を見つけて『引き取ったなら最後まで面倒をみやがれ!』……と言おうとは考えていない。  実は彼の名前すら忘れていた。  一応彼は命の恩人なわけで、私は結構失礼な奴だ。  ともかく、旅をするにあたり、それを終える前に私は私で生きる目的を探さないといけないと思っていた。  今の所何の目的もない。  どうしたものか……。  そう考えていたのはついこの前の事だった。 「どうしたの?ぼくの髪に何かあるかな?」  ふと、幼い頃の事を思い出す。  彼はなかなか帰ろうとしない私を迎えに来て、一緒に手を繋いで帰っていた。  夕暮れ時、黄昏の光でいつもより輝くその髪にひどく憧れていて、いつも見上げていた。  そういえば、彼の身長は私より高かったのかとも思い返しながら。 「どうして≪あかつき≫はきらわれてるの?」  私はそう言って彼を困らせた。  実は彼もその理由は良く知らなくて、その時私が知っていた理由を返すしかなかったらしい。 「昔ね、東のほうにきれいな丘があったんだって」  彼は日の沈む方角を見た。  ……?  この記憶は正しいのだろうか?  名前を覚えていないくらいだから、向いている方角が記憶と違ってもどうでも良かったが、何故東と言って日が沈む方角を見たと思ったのが納得出来なかった。  散々悩んだ末どうでも良いという結論に至り、結局記憶違いで済ます事にして、私は再び過去を思い出そうとした。
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