1751人が本棚に入れています
本棚に追加
さて、話は、瞬が心の叫びを上げる数時間前に逆上る。
それは、一本の電話から始まった。
「はい、もしもし、真田です」
『あ、瞬坊?私、美音だけど…』
受話器の向こうから、鈴を鳴らした様な女性の声が伝わる。
声の持ち主は、名前を神代 美音と言う。
年齢は、瞬の十歳年上の二十六歳。瞬が幼い頃から世話をしており、瞬を「瞬坊」と呼んでいた。
瞬の方も「美音ネエ」と呼び、お互いに親しい間柄であった。
「こんな休みの日にどうしたのさ…」
『あ~…えっと……華澄さんはいる?』
華澄とは、瞬の母親である。
「母さん?いや、ちょっといないっすけど?」
瞬がそう答えると、美音は安息とも嘆息とも取れる溜め息を吐いた。
「美音ネエ?」
『……あ、あ~…そう?…わかったわ。残念だわ…色々と』
「?」
『じゃあ、瞬坊。制服に着替えて、外に出ていて。迎えに行くから』
それだけ伝えて、美音は電話を切った。
瞬は頭を捻るが、言われた通りに制服に着替えて外に出た。
それが、始まりだと知らないままに…。
最初のコメントを投稿しよう!