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粉雪舞い散る夜に
街はもう、夕暮れの時間を通り越して柔らかな夜景の時間になっていた。
空港の滑走路が見える駐車場に僕は単車を止めてエンジンを切った。
ヘルメットをとると冬の風が頬にあたる。
いつもなら、寒くてヘルメットはとらないのだが今日の僕は違っていた。
もうすぐ、彼女が乗り込んだ飛行機が僕の頭上を通ることになる。
僕は彼女に「さようなら」と言うことができず、この場所で彼女を見送ることにした。
僕は、いま飛び発つ飛行機に向い心の中で彼女に語りかけていた。
『ごめんな……。
俺、ぜんぜん優しく出来なかったよな…………。』
西の空に僕の後悔と彼女を乗せて飛行機が消えて行く。
空からは冬の訪れを告げる雪が、空を見上げる僕の頬に優しく触れている。
僕は我慢していた涙を流さないようにずっと上を向いていた。
そして、彼女に伝えられなかった想いを大きな声で叫んだ。
飛び立つ飛行機や街を行き交う車の騒音が言葉にした想いを掻き消していく。
「………。
しあわせになれよ!!!」
街に降り続ける雪が全てを白く変えてゆく。
この心のモヤモヤも消えてしまえばいいのに……
全てを隠すこの雪に想いを込めて………。
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