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「あ、電話だ。ちょっとシーね」と、憂祐は人差し指を口に近づけ静かにする仕草をした。
お客様からだ。
私は黙って音が立たないようにケーキをモクモク食べた。
憂祐は客電をしているにも関わらず私の傍による。何だか私は自分の息さえ聞こえるんじゃ…と息苦しくなる。
そんな事はないのだけど。
『あっ…もしもし…』
お客様の声が漏れた。
ひょっとしたら、会話が聞こえるように憂祐は私の近くにいるのかな?と思った。
私は大丈夫なのに…。
「おはよ~」
と憂祐は優しく言う。
『あっ、おはよ…』
声の主は何だか可愛げのある感じだった。
ふと ん?と私は考え込む。憂祐は私の横で普通に「どしたの?」と話している。
優しいハルの姿だ。
『あ、起きてたかなぁって。今日何か無理にお願いしちゃったし…』
私は電話口から少し聞こえるその声を思い出した。
「あ~起きてた起きてた。大丈夫だよ。しかも無理にじゃないし!気にすんなよ」
憂祐の優しい声が続く。
「わざわざ有難うね」
憂祐は早く電話を切りたそうにしてる。
声は優しいが顔は笑ってない。聞いているようで適当に話している。
私が取り分けたケーキをフォークで半分にして、口に入れた。
そんなに入れたら喋れないんじゃ…
という目で私は憂祐を見た。
憂祐はおかまいなしって感じでモグモグして「うん、うん」と言っていた。
『…何か食べてるの?』
電話のお客様は今日の同伴相手。ヒルズで一緒にご飯食べるのに今食べてたら私と食べる時、お腹に入らないじゃない と言った口調だった。
「あ、ごめんケーキ食ってた。」
憂祐はアハハと笑ったが、電話の向こうでは『ケーキ?』とやっぱり不服な様子だ。
「昨日営業終わりに従業員が嫌がらせでワンホールくれたんだよね。それを少し。甘いもん食べて脳を活性化させないと♪」としらじらしい事をサラサラ言った。
ふーん…と府に落ちない感じでお客様は言った。
そりゃそうだ。
一緒にケーキ食べたいんだろうね。
私は耳に入る会話を何となく聞きながらケーキを食べ終えた。残りはまた明日♪
「まぁ、じゃぁまた後でね」と憂祐は無理矢理電話を終わらせた。
ピッと電話を切るや否や、「これから同伴すんのに電話とかだるいよ」と言って残り半分をペロリと食べた。
私は憂祐をチラッと見て言った。
「今日の同伴栞ちゃんか」
大学生だったのに憂祐の為に風俗で働きだした、あの栞ちゃん。
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