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「仲、良かったか?」
奏の問い掛けを無視し、再び同じ質問を投げ掛ける。
環は、その茶色がかった瞳で、真っすぐ奏を見つめていた。
―…いつになく真剣な表情。
こういう時の環は、自分の求めている答えを得るまで引き下がらない。
長年の付き合いからそれを理解していた奏は、素直に問い掛けに応じる。
「仲良くなかったよ。話した事もなかったし、ついさっき遥香に教えてもらうまで、名前も知らなかったくらい。」
環は顔色一つ変えず、わかった。とだけ呟いた。
「どうして?それが何か自殺と関係あるの?」
思った事をそのまま口にする。
環はいいや、と答えた。
「お前宛てに…森泉綾から遺書があるんだ。
家族にも友達にも一切遺書らしいものは見つかってないのに、お前にだけ。」
そう言って、一通の封筒を差し出す。
奏は予想もしていなかった事態に動揺を隠せない。
「どうして、私に…?」
「わからない。でも、確実に宛名はお前なんだよ。」
―…確かに、その封筒には森泉のものと思われる筆跡で、
『柏木奏様へ』
と書かれていた。
「―…なんでこれを環が持ってるの?」
「親父が現場で見つけたらしくて、お前にって。
警察が持ってくより受け取りやすいだろーから…」
確かに、環の父親は県警の刑事だ。
この辺り一帯は管轄らしいし、届けてくれてもなんら不思議はない。
でも…、
でも怖い。
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