招待状

6/12
前へ
/238ページ
次へ
じゃれ合う奏に声をかけたのは、黒髪の青年だった。 彼は一定の距離を保ちながら、戸惑った表情で奏を見つめている。 二人の間に、肌寒くなりだした季節の風が流れ込む。 「――…環。」 奏は青年の事をそう呼んだ。 昔っから知ってる、優しくって、少しお調子者で。 情にものすごく厚い人。 私の、1番大切な人。 ―――…そう、数カ月前までは。 と、環の姿を見た遥香が物凄い勢いで彼の元へ歩み寄る。 眉間にしわを寄せ、目に余る程の殺気を漂わせながら。 「何しにきたわけ? もう奏に関わらない約束でしょ? あんだけ散々泣かしときながら、今更何の用?」 遥香は今にも殴り掛かりそうな程の勢いで、環を精一杯睨み付けながら冷たい言葉を吐き捨てた。 「ごめん…。あの時の事は悪かったと今でも思ってる。 でも、今はどうしても奏と話す必要があるんだ。 二人っきりにしてくれねーか?」 真っすぐ遥香を見つめながら、意思の強い声でそう答えた。 その言葉を聞いた遥香は更に怒りを現にする。 「あんた…!どの面下げてそんな事…ッッ」 「いいの!!!」 背後から、奏が叫んだ。 その声に、遥香は驚いた表情を隠せない。 「でも…!」 「いいの遥香。ありがとう…大丈夫だから。心配しないで。 二人で話しさせて?」 遥香は唇を噛み締め、押し黙った。 くるりと環に向き直る。 遥香は環の目の前に立ちはだかると、思いっきり右手を振り上げた。 ――――パァア…ン!!! それは、一瞬の出来事で。 気付いた時には乾いた音が辺りに響いた。 環の左頬がほんのりと赤く染まり、ひりひりと痛む。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

254人が本棚に入れています
本棚に追加