673人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
沢井との一件が頭を占めていた。
あんな風に沢井と話したことはなかったし
沢井に自分の駄目なところを指摘されるなんて思ってもみなかった。
人生はいろいろあるな、と改めて感じる。
確かに何も聞かずに逃げるなんて
どこかの安いドラマの女みたいだ。
あの時の僕は
自分の気持ちを守るので精一杯だった。
あの時
何か言おうとしていたのに
それすら聞く余裕もなくて
ただ逃げてしまった。
聞いていれば
何か変わっただろうか。
携帯の着信履歴を見る。
文緒の番号が並んでいる。
こんなこと
今まで望んでも見られるものではなかった。
いつも僕から連絡していた。
文緒はよほどの用がない限りかけてこなかった。
その文緒からの電話。
出たい気持ちと
負けたくない気持ち。
まだ怒ってるんだって
許せないんだって
分からせたい気持ちと
もう少し
自分のことを考えていてほしい気持ち。
……矛盾は広がる。
最初のコメントを投稿しよう!