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ひゅっと、空気が凍る。
信じられないと言うように見開かれた目が、無神経なほど俺を見つめて。
首においた手に力を込めた。
やっと、この欲望を満たす方法が思い付いたんだ。
俺の知り得ないことを考えるなら、思考を停止させてやればいい。
俺と違う空気を吸うなら、呼吸を止めてやればいい。
俺の意志に関係なく動くなら、動かなくしてやればいい。
俺だけがこいつの全てであるように。
滲みるような痛みが腕に走る。
バタバタと暴れていた身体は今では随分と大人しい。
呼吸はしていない。
たぶん、脳も機能していない。
全て望み通りになった。
なのに。
なんだ?この、喪失感は。
満たされるどころか、穴の開いた底から零れていくようだ。
「…蒼(ソウ)」
呼んでみても、返事はなく。
望んでみても、微笑みはしない。
「蒼…」
俺は、俺とお前以外の全てを取り除いてしまいたかった。
だから殺したのに。
残ったのはただの抜け殻。
俺さえも手の届かない、見えない何かに蒼を掻っ攫われてしまった。
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