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「ああ、わかってるよ」
交渉者と呼ばれた男は、軽く口の端を上げて『風』に対応し、すぐに少年に視線を戻す。
「悪いなぁ。ちょっと込み入っててな…」
男は言いながら懐から布を取りだし、奴隷商に叩かれ赤く腫れている少年の手に巻く。
目を丸くする少年を他所に路地を進み始める。
「そう言えばお前、名前はなんて言うんだ?俺はフランク」
「フランク?」
少しイントネーションがおかしいが、少年が話せる事に安堵する。
「そうそう、フランク。で、お前の名前は?」
もしかしてないのか?と、フランクの急かす声にあわてて頭を横にふり口を開く。
「ノーア」
母親と別れてからは一度も聞かなかったそれは、寂しくも懐かしく感じる。
「ノーアか。いい名前じゃねぇか」
そう言ってフランクはノーアの黒い髪をかき混ぜる。
「んじゃ、サクサク用事済ませようかね」
「用事?」
フランクに馴れてきたのか、ノーアの表情から当初の不安感はなくなっていた。
「ああ。これから悪い事をしに、な」
爽やかに放たれた言葉にノーアの表情が硬直した。
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