桜色思念隠し

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「春だね~」 気の抜けた声。 満開の桜の木の下で私達はボーッと桃色の花を見上げていた。 「見事な満開だわ」 「ね!桜綺麗だねー。お腹すいたなー」 「……花より団子ってあんたの為にある言葉なんだと思うわ」 私の横でお腹を擦る親友、有澄。 私達は中学生になった。今は入学式の帰り道。 真新しい制服に身を包んでやや緊張気味な新入生の中で、見事に彼女はいつものマイペースぶりを貫いていた。 雲一つない快晴で暖かい気候。更にはタイミングよく満開になった桜の木々。 こんな春の気持ち良い日に入学式を迎えられた私達はラッキーなんだろう。 「有澄は中学生になっても変わらないわねぇ」 「そう?制服着たらちょっと大人っぽくなったと思わない?」 「さっきの花より団子発言で台無し」 ニコニコ笑ったと思ったら途端に口を尖らせてみたり、有澄はいつでもマイペース。 そんなのほほんとした所が彼女の良いところなんだけど。 「あああっ!!!」 なんて思った矢先、叫ぶ有澄。 何事かと目を見開いてどうしたのかと問い掛ければ 「桜の花びらキャッチしちゃったー」 とかニコニコ笑う。拍子抜けもいいところだ。 有澄は嬉しそうに私の前に手を出してきた。 手のひらには一枚の桜の花びら。 「地面に落ちる前に花びらキャッチ出来ると、いいことあるんでしょ?えへへ」 「……そんなんでいいこと起こるなら世界中の人間が日本の桜の木の下に大集結するわよ」 年の割りに妙に冷めた私と違って、ちょっとしたことでもこうやって笑顔になれる彼女が羨ましい。 有澄を見ていると不思議と刺々した気持ちが丸ーくなるんだ。 「んー…でも、いいことって信じた方がいいじゃん! 信じるのはタダなんだし」 「…………あーそうね」 そしてたまに出る妙に現実的な発言も面白い。
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