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「桜、いいなぁ」
「そう?」
「うん。素敵だなぁ」
「……そうね」
「私、葉桜みたいになりたいなぁ」
「…………………は?」
真顔でなんて微妙な発言するんだこの子は。
有澄ってごく普通の子だけど、たまにズレてるんだわ。
桜並木の中でも早く花が散り、緑の葉が目立っている木を見上げながら有澄はさらっと言った。
……反応しづらっ
「……葉桜?桜じゃなく?」
「うん」
「葉じゃなきゃ駄目なの?」
「うん」
有澄はこくこくと頷き、見上げていた1本の木の下へゆっくり歩いていく。
桜みたいに綺麗になりたい。とかならまだしも、葉桜みたいにって言う人間は見たことない。少なくとも私は、だけど。
「あんた変わってんのね。
なんでまた葉桜に…?
桜の方が綺麗でいいじゃん」
思ったことをそのまま口にした。
私は他人への発言にあまり気は使わない。有澄には特にそうだ。
そのせいで性格キツいと思われることもしばしば。
でも有澄はそんな私にいつも笑顔を向けてくれる。
今回もそうだ。
有澄はふわりと笑った。
「だって、桜って綺麗だけどさ、あーもうすぐ散っちゃうんだなーって思ったら寂しいじゃん。
こんなに綺麗なのにまた来年の春が来るまで見れないんだなーってちょっと悲しくなっちゃう。
でもさ」
有澄はもうすぐ花が散り終えるであろう桜の木にそっと寄り掛かる。
「葉桜を見ると桜が満開だった時のことを思い出すでしょ?
あー綺麗だったなぁって、素敵な光景を思い出して素敵な余韻に浸れる。
葉桜は寂しいって思わせなくて、素敵なことを思い出させて楽しい気持ちにさせてくれる。
だから私は葉桜みたいになりたいの。
私と一緒にいる人を楽しい思いでいっぱいにしたいんだぁ」
…………なるほど。
そういう考えもあるのか。
ややお人好しな傾向にある彼女らしい考え方。私は決して思いつかない。
自分が桜みたいに綺麗に…なんていう自分本位な考えじゃなくて、他人の為にこうなりたい。
有澄って一見馬鹿っぽいけど、時々大人だなって思う。
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