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「……桜見て寂しいなんてなかなか聞かないわよ」
「そう?私はそう思っちゃうんだよねー。
もっと見ていたいのに、散ってほしくないのになーって」
「……………」
彼女はどうなんだろう。
彼女は桜より葉桜になりたいと言う。
桜は皆に散ってほしくないと、「無くなってほしくない」と思ってもらえるのだ。
でも葉桜は違う。皆に綺麗な思い出を蘇らせることが出来るかもしれない。
だけど葉桜は、皆に思ってもらえない。
もっと見ていたいと、思ってはもらえない。名残惜しんでもらえない。
それって、寂しいんじゃない?
他人には寂しい思いをさせないかもしれないけど、自分は寂しいじゃないか。
有澄はやはり笑顔。
笑顔でそんな寂しいことを言う。
いつからだろう。
たまに、たまにだけど、有澄の笑顔が寂しげに見える時があるのだ。
「…でも」
「それにね」
私が言おうとした時、丁度有澄に遮られた。
一度は開いた口を閉じて、木に寄り掛かる有澄を見つめる。
「葉桜は、それ以上は散らないでしょ?」
ぽつりと呟いた言葉は微かに、でも確かに私の耳に届いた。
なんだろう。
よくわからない、けど
何気なく言った当たり前な発言に、彼女の思いの全てが詰まっているように感じた。
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