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「……あんたさ、もう少し自己中心的になった方がいいと思うわ」
有澄は他者中心的過ぎ。
昔からそう。自分のことは後回しで他人のことばかり。
だから自分のことを考えない有澄の代わりに私が彼女のことを一番に考えていた。
「えー?私は十分自己チューだよー」
有澄が家庭で悩んでいることはなんとなくわかる。
彼女は不思議なまでに家のことを話さない。寧ろそういう話題を避けているようだった。
私に話してこないから言いたくないんだろうと思い、私も何も触れない。
彼女から話してくれるのを待とうと思う。
……もし私がいなくなったら
誰が有澄のことを一番に考えてくれるんだろうか?
「……美帆?」
黙り込んでしまった私を有澄は不思議そうに見つめる。
名前を呼ばれて我に返った私に彼女は少しの沈黙の後、小さな声で言った。
「……まぁ、
もし叶うなら───────」
再び私達の間を風が吹き抜ける。
少し強めの風が桃色の木々を揺らし、葉や花達が擦れ合い、桜が舞う。
彼女の小さな声は風にかき消されてしまった。
聞き返そうと思ったけど、有澄の切なそうな表情を見た途端、自然と言葉を失ってしまう。
有澄の本当の表情を見た気がした。
ふわふわとくるくると変わる表情。私は彼女の感受性が豊かなところが好きだ。
でももしかしたら
それは単なる誤魔化しだったのかもしれない。
自分の感情を隠すために表に出していた様々な表情。
笑顔の奥底に沈む暗い何か。
ねぇ有澄
貴女はいつから花びらを舞い散らせて
自分を隠すようになったの?
どんなに魅力的な何かで紛らわせたって
いつかは剥き出しになってしまうのに
そう、花が散り終えた葉桜のように。
……なんだ。
有澄はもうすでに
葉桜みたいなものじゃないか。
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