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彼は迷っていた。
自分から話を切り出すベキだと言うのは頭の中では理解している。しかし、いざとなると、気恥ずかしくて、思わず目線を逸らしてしまう。
「……俺、ダメだなぁ」
彼はそう、窓の外を見ながら独り呟いた。
彼女に自分の想いを告げねばならない筈なのに、その勇気がいまいち湧かなかった。
彼女は勇気を振り絞って、自分に想いを告白したと言うのに……だ。
それに比べて自分ときたら……、彼はそんな事を考え、ため息をつく。
「よぉ、富永。一人なにため息なんてついてんだ?」
彼に友達が話しかけて来る。
「うわっ、出た。空気を読まない男」
「誰が“空気を読まない男”だ!」
その友達の様子に、彼は乾いた笑いを送る。
「良いよな、乾は。相変わらず悩みなんて無さそうで」
「そいつはどういう意味だっ! まるで俺が何も考え無しに生きているみたいじゃないかっ!」
「……何を今さら」
「お前の俺に対する第一印象が分かった気がするぞ!」
そんなお笑い芸人のコントみたいな真似をして、二人は一頻り笑い合うと、友達は少し、真面目な顔をして、彼に聞いてきた。
「なぁ、富永。なんか悩みがあるなら、相談してみろよ?」
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