10人が本棚に入れています
本棚に追加
部屋へ入るとさっきの医師がレントゲンを映す電光板の前に座って待っていた。
私達家族3人は小さな丸い椅子に腰掛けた。
「奥様の検査結果は胃癌でした。胃の全摘手術を行います。」
淡々と話す医師の前で少し父の肩が揺れた気がしたが、父は黙ったまま静かに話を聞いていた。
私の父はいわゆる頑固親父だ。決して子供達の前で取乱す様な事は無く、また甘やかす事も無く厳しい父だ。
私はそんな父親が大嫌いで高校生の頃から顔を見れば喧嘩ばかりしていた。高校生3年の時に父は私に大学進学を薦めたが、私は1日でも早く親の束縛から解放されたい一心で短大へと進んだ。
短大の2年間で父と話をする事は無く、就職も勝手に地方に決めて家から出て行く段取りも自分で決めた。
母はそんな私達の間に挟まれ、いつも辛そうだった。
母が胃癌になったのは私が原因なのかなぁ…。
私はそんな事を考えながら淡々とした医師の口調を聞いていた。
母はずっと手にしたハンカチを強く握り締めていた。
最初のコメントを投稿しよう!