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「少し前に興味深いサイトを見つけましてね。この辺りに住んでいる若い女性が作ったらしいんですよ。『この駅で自殺すると楽園にいける』といった主旨のサイトで、かなりの数の信者がいるみたいです」
胡散臭い話だ。そんな話を信じる人間がいるというのも恐ろしい話だが…。
「その女性が去年、自殺したんですよ。この駅で、電車に飛び込んで。その時、体はバラバラになってしまったらしいんですが、首は綺麗に残ったらしくて。その表情がとても幸せそうだったらしいんですよ。それで『彼女は楽園へいったんだ』と、サイトで話題になりまして」
「……後追い自殺ですか」
「ええ、その月の内に3人、次の月に5人、その次はまた6人と、どんどん自殺者が増えました」
「警察は何もしなかったんですか?」
「しましたよ。昼間はいつも警官が駅を見回ってます。だからみんな最近は、人のいないこの時間に自殺しているんでしょうな」
信じ難い話だ。そもそも……
「なぜ、そんな大きな事件が新聞やニュースになっていないんですか?」
私は朝、出勤する前に必ずニュースを見るが、そんな事件は記憶に無い。
「はっきりした事は分かりませんが、サイトでは報道関係者や警察内部にも信者が大勢いるんじゃないかと、もっぱらの噂ですよ」
そんなふざけた話があるだろうか。
もしこの話が本当なら恐ろしい話だ。私達の知らない所で、そんな集団が形成されつつあるなどと……
その時、アナウンスが電車の到着を告げた。
「おや、来たようですね」
男が立ち上がった。
「お話できて楽しかったですよ。最期に楽しく話ができて良かった」
「………最期?」
そういえば、この男は始終そのサイトを見てきたような口調だった。
まさかこの男も………
「では、また縁がありましたら、向こうでお会いしましょう」
ホームに電車が入ってくると同時に、男は線路に飛び込んだ。
鮮血とともに宙を舞った男の首には、世にも幸せそうな笑顔が張りついていた。
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