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「なに……これ……」
彼は紅蓮の業火に焼かれ崩れ落ちていく我が家を呆然と見つめていた。
今まで広がっていた青空は、広げられた雄々しき両翼によって遮られ、地に大きく黒い影を落とす。
炎で染まった空はまるで血の色のようで、その中を飛ぶ両翼をはためかせ旋回する“襲撃者”の姿は毒々しいほどに優雅で、そして脅威的。
それは天を覆う黒き悪魔のようで――。
彼の前では確かにさっきまで人々が笑顔を見せていた。
そう。本当についさっきまで。
彼の前には友がいた。
彼の後には母がいた。
しかし、それはもう、いない。
孤独感と恐怖、そして無力感は彼の両足から力を奪いとっていった。
彼の頭の中にあるひとつの、大切な人に言われた言葉が響く。
「これが、世界の流れ、なの……?」
彼の脳裏に浮かぶのは、緑一色が広がる草原や、色とりどりの装いをした人々の歩く街、赤煉瓦で作られた歴史を感じさせる家々。
しかし彼の目に映るのは、生気を無くし、一面灰色と赤に包まれた廃墟。
立たぬ膝を地に着け、彼は両の拳を地にたたきつけ、己の無力さを嘆いた。
そして沸き起こるひとつの黒い感情。
それは、憎しみ。
「僕は……いや、俺はこの世界に復讐する」
先ほどまで立ち上がることさえ不可能だった両足に力が戻る。
燃え盛る紅蓮の炎は彼の歩む道を焼き、戻ることを許さなかった。
これは、魔の世界に生まれた一人の少年の物語である。
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