第一部 序章

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「釣りだ。釣りに行こう」 「釣り?」  <なんで?>なぜ行かなければならないのか、私には到底分かるはずがなかった。なぜなら、父はいつも突然思い立ったら、すぐ行動する人間だからだ。前にもあった。家の裏に山がある。その山の麓に薔薇畑がある。それも父が突然思い立って、山の麓に薔薇の種を蒔いたんだ。他にもある。朝早く、ノコギリや金槌(かなづち)の音で目が覚めた。私は窓から外を眺めると、父が何やら作っていた。私は父に何を作っているのか尋ねると、父は興奮しながら「小屋だよ、小屋」と答えて、また作業を始めた。物置小屋だ。だが、その小屋も父の趣味の物しか入ってない小屋だ。私に言わせれば、ただのガラクタ小屋にすぎない。今回もそうだ。きっと父の思いつきだろう。私は到底行く気などなかった。誰がこんな朝早く釣りに行く気になるだろうか。たとえ私が十二の子供だとしても、その気持ちに変わりがなかった。だが、父は言った。
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