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世は戦乱の初期。
彼は平地で国境近くにある小さな小さな村で生まれ育った。
この当時、彼はまだ[テュルフィング]とは名乗っていなかった。
その名は誰一人として覚えていない。
テュルフィングという名でさえ異名の一つに過ぎない。
戦で人手を取られた上に寂れた村であった事もあり、若者は殆ど居ない。
老人と子供しか居ない、人の殆ど居ない、そんな村だった。
その時彼は数えて十もいかない、本ばかりをひたすら読み漁る子供だった。
「……ねぇ見て!」
「ん、何?」
「コレ、綺麗でしょ?」
「鉄……の筒?」
「ちーがーうー!ネックレス!!」
「分かってるよ、シアが作ったの?」
「そうよ、カワイイ?」
「……うん」
シアと呼ばれた女の子は、空の薬莢を糸で繋ぎ野花をあしらった質素な首飾りを身につけて彼の返事に微笑む。
彼は村の外れにある小さな丘で本を読むのが好きだった。彼女がいつも遊ぶその場所が一番のお気に入りだった。
彼女もまた、彼の傍で遊ぶ事を好んだ。
「いっつも本読んでるね、面白い?」
「面白いから読んでるんだよ」
「ふぅん、今日は何?」
「えっとね……」
彼はゆっくりと、そして自分にも相手にも分かりやすく本にある物語を口にした。
内容は小難しい小説にも似た、翻訳のなされていない異国の物語。
頭が飛び抜けてよかった訳では無い。
ただ、彼女が話を喜んで聞いてくれるからひたすらに文字を覚えた。
淡い淡い幼心の恋。
彼女もまた、彼が読む話にその心踊らせて聴き入った。自身の知らない世界での話は彼女にとっても面白い事だった。
何より、彼の傍にいる事が楽しかった。
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