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「……大方こんな感じ、どうだった?」
「……お姫様、王子様と幸せになったんだ……よかったね……」
「あぁ泣かないでよ!」
「うー……だってぇ……」
彼は慌てながら泣きじゃくっている彼女の頬にそっと手を添える。彼女は泣き止む事なく、彼の手に縋り付き肩に寄り掛かる。
彼はただただ彼女を抱き留め、その小さな手で背中を撫でるだけだった。
花畑など無い。冒険が出来るような森など無い。それどころか隣国同士の小競り合いが続いている国境付近が故に、日々の安定した平和すら無い。
無数の矢弾や薬莢が転がる、小さな小さな丘の上。
二人は思った、ひたすらに願った。
明日もまた、何もありませんように。
明日もまた、二人で過ごせますように。
それだけが、幸せだった。
しかし。
時と運命はいつでも至極残酷なものである。
その数日後、雷鳴を纏わんとする暗い雲が空一面に掛かり雨が降りしきる日。
彼にとっての慘劇が起きた。
彼は彼女の家に行こうとした。
父親に貰った大きくて少しばかりぼろけた傘を持って、彼女に読んであげる為の本が濡れぬように使っても怒られない厚手の布でしっかりと巻いて。
彼女もまた、彼の家に行こうとした。
母親に借りた質素な傘を持って、母親と共に作った少量のお菓子を片手に空の薬莢を繋ぎ合わせ日が経ち枯れてしまった野花を取り払った拙い首飾りをその身につけて。
二人の家は村の外れ近く。
双方遠い距離ではない。
二人が雨の中、互いを見つけ彼女が大きく手を振ったその瞬間。
遠くの物影から獲物を狩り捕えんとする鷹の如く不意に飛んで来た鋭い矢が彼女に当たった。
そしてそのまま、崩れ落ちた。
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