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彼の声は、空に大きく轟いた雷鳴によって掻き消された。
彼女が倒れた事を引き金に、村は敵国の兵士に襲撃され制圧された。
敵味方どちらにとっても村の位置は足掛けとして好都合だった、しかし下手に攻めてしまえば荒れ地に変わり拠点としては役に立たなくなってしまう。
そんな血生臭い理由の為に、こんな奇襲を受けてしまった。
それは一瞬の出来事だった。
血に塗れた彼女は彼の腕の中に抱かれ酷くぼんやりとしたその眼差しを雨が降り続く空へと向けていた。
辛うじて息はあった。
だがしかし、矢は首を真横に貫いている。助からないだろう事は明白だった。
「……ね、ぇ……」
「喋るな!!喋っちゃダメだよ!?」
「ア、タシ……死ん……じゃうの……?」
彼女は掠れた小さな声で呟いた。
彼はボロボロと泣きながら大きく首を横に振る。しかしたとえ小さな子供といえど、それが嘘であると分からない筈が無い。
「……逃げ、て……」
彼女は彼が大好きだった。
将来はお嫁さんになると公言する程に。
そう、本気で宣言出来る程に。
「嫌だ、行かない、何処にも行かない」
彼もまた、彼女が大好きだった。
お嫁さんになると言った彼女の言葉を真に受けられる程に。
永久に二人で居られる事を願う程に。
「…………ねぇ……」
彼女は笑った。
痛みも何も無い。意識があるだけ。
その意識すら危ういというのに彼女はただ申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「……誰も、泣か……なくて……誰……も……苦しくない……そういう世界だったら……よかっ、た……のに……ね……」
小さな小さな掠れた声でそう言った彼女は小さく小さく笑った。
そしてその瞳からゆっくりと、微かな光が消え失せた。
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