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滝の様に容赦無く降り注ぐ雨が降り続く空の下、多くの兵士がなだれ込み村の人々が制圧下に置かれる中で彼は一人ゆっくり体温を失っていく彼女を抱いたまま動く事はなかった。
ただただ静かに泣いていた。
そしてひたすらに彼女の最期の言葉を一人噛み締めていた。
「オイ、小僧」
一人の兵士が邪魔だと言わんばかりに剣を振りかざして声をかける。
しかし彼は微動だにしなかった。
「小僧……邪魔だ、あっちに行け」
「……ウルサイ」
「何だと?はん、蝿の音は小さくてよく聞こえんな」
「……ウルサイんだよ」
彼は漸く口を開き、剣を片手に持つ兵士に世の果てを思わせるような瞳を向けた。
兵士は全くもって臆する意味も無いという態度でその言葉を笑った。
「さぁそこを退け小僧、抵抗さえしなければ殺しはしない」
「……シアは、抵抗なんてしてなかった」
「シア?ああ、その死体の名か……それは誤射だ、誤射程度で死んでしまうような事ならこの先も長くは無かったんじゃないか?」
「……誤射……か」
彼女の死をさも嘲笑うかのように喋る兵士に彼は酷く不快そうに眉を寄せた。
「……わかった、ここ退かない」
「はぁ?退けと言ってるんだ」
「だから、退かない」
剣を向けて、あからさまに苛立った兵士に無表情のまま言った。
怒りも、憎しみも、彼を支配している訳では無かった。ただただ不快で従うのは御免だと思ったからの言動だ。
「俺があんたみたいな奴に殺されるなら、あんたの言う事に従ってても俺は多分この先も長くないんじゃないかな」
だから、退く気は無い。
そう付け加えて彼は兵士から腕の中の彼女へと視線を戻した。
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