夢幻憂現

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夢幻憂現

  あれから何世紀かの時が流れた。 しかしテュルフィングの体は未だ二十歳かそこらのままだった。 当然だろう、力と使い方を望んだ代償として人では無くリッチ……つまりは一度死に、魂を留めた不死者として生きる事を余儀なくされたのだから。 二十歳かそこらの年齢というのは、流石に子供のままで扱うとなるとそれもまた厄介という、男もとい師匠の考えからだ。   男の名はヴァジュラ。無論、偽名である。 資料等には無いが、呪術、魔術、ネクロマンシー(死霊術)に長けた使い手でその力量から魔術の具現体と言っても過言では無い程の元人間だった。   彼らの名前の由来はどちらも架空の存在である武器の名前だ。 ヴァジュラ本人が武器を作る事もある為、武器の名を自身の偽名として使っている。   あの頃の戦が終わったのもつかの間、既に次の戦が来ようとしていた。今度は世界の全てを巻き込んで。 そう仕向けたのはヴァジュラ本人だった。   人は目的も持たず長い時を過ごすと何かに支障をきたし始める、[元]人間も同じく。そして平和を求めず混沌を願う。   ヴァジュラは典型的なそれで、テュルフィングはそれを良しとは思わなかった。 そこで一計を案じたテュルフィングは師の一瞬の隙を突いて封印する事に成功はしたものの、既に大きく動き出した大乱の戦を迎えんとする歯車は止まる事など知るよしもなかった。   「……全部、俺が片付けてやる」   彼が名を馳せ始めたのはこの頃からだ。 彼は何故かこの大きな戦を内側から止めるという事はせず、真っ向から[全世界の敵]という位置に立つ事にした。     英雄になりたいというならば勝手になれ。 勇者になりたいというならば勝手になれ。 正義を振り翳したいのならば勝手にやれ。 そんな勝手な理由で他人様を巻き込むな。     彼はそんな言葉を残している。   ここから先は彼の全盛期を語る事になる。
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