夢幻憂現

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  テュルフィングが初めて史上に出現したのは、ある国同士の大きな合戦の時。   彼はその合戦の場を、一つの大きな雷鳴と共に参加者とその地を一瞬で消し去った。その場は半球状に綺麗に刔り取られ跡形もなかったらしい。 何処に消し去られたのかは分からない。   彼は間を置かずにすぐ別の戦場、全く別の国で起きた市街戦に現れた。 此処では双方の死体を数多に残し、その場に居た者全ての魂のみ狩り集めたと言われている。 何に使われたかは知るよしも無い。   そして一月程の間を開け今度は一国の城に現れた。たった一人の術師相手にその城は一夜で陥落し城下の者達も含め、大量の惨殺死体が散乱していたという。 理由を理解出来る者は居なかった。     どれも曖昧な表現を使うのは、実際に見て記述した人間が居ないからだ。彼がその場を訪れた跡に人は居ないのだから、当然といえば当然だろう。 それでも彼が行ったとされるのは彼自身がその場に誰かが現れるまで停滞しその人間に自身がやったと説明したから。   そうして自身を誇示して見せる事が、彼が目的を達成する為の最短ルートだった。   殆ど立て続けといっても良い程の荒業で、このような騒ぎを立てられてしまうと国々も黙ってはいられない。 各国それぞれが彼に向けて軍勢を放ったが彼はそれを独りで、たった独りきりで退けてみせた。   相手はたった一人だというのに、多勢での戦術が効かない。   これ程に驚愕せざるを得ない事は今までになかった。いや、驚愕するだけならばまだ良いだろう。 彼が定めている標的は初陣から三戦を見ても分かるように全ての国だ。いつどの国が、いつ何処で誰の命が狙われてもおかしく無くなった。 こうなっては他国を気にしている余裕などない、それぞれの国の長がそう思った。 それを理由に、各国の争いは徐々に勢いを失っていった。   それが彼の狙いだ。  
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