第二章 禍津日

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「おっ、ようやく目が醒めたか坊主」 今度は男の声がした。 首を声の方向――右に向けると、そこには40前半の肉感的な男が立っていた。 手にはぴくりともしない鹿が握られている。 「雪の中で凍死仕掛けていたのを見つけた時には、かなりびっくりしたぞ。あの状態でくたばらないとは運がいい」 「……」 「なんであんな獣道に倒れていたんだ?」 「……」 「だんまりか? まあ、それでもいいがな」 男は無造作に狩りたてらしい男鹿を、カナンの方に向かって投げ放った。 「親父やるじゃん! 今日は鹿尽くしだね」 カナンは喜々として鹿を奥の方に引っ張って行く。 ガルンはその様を見送ってから、男を訝しむ様に睨みつけた。 「あんた……なんだ?」 ガルンの視線に敵意を感じて、男は砕けた笑みを浮かべた。 「なんだ……って、せめて何者だとか言ってくれよ。俺はグラハト。まあ、剣術士って奴だ」 「……お前はなんだ?」 「だから、俺はグラハト、グラハト・パルフィスコー。しがない剣術士だっつうの」 「お前は【何なんだ】と聞いている」 ガルンの再三の質問にグラハトは苦笑いを浮かべた。 「お前、解るのか?」
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