壱.“逢”

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 そうしてどの位が経ったのだろう。  眠っていた訳では無いが、何処か遠くに飛ばしていた意識を取り戻した時だった。  大通りを行き交う若い女同士の会話が男の耳に入る。 「……でね、紅い満月に強く願うと奇跡の扉が開くって……」 「えー? 最近流行りの都市伝説じゃない?」  都市伝説。  そんなもので盛り上がれる若さが、今の男には羨ましかった。  いや、羨んだのは若さだけでは無い。  その心の純真さにも。 「紅い満月ねぇ……」  男は再び仰向けで、四角い空を見た。  さっきはその姿が見えなかった月が、時を経て男の頭上に差し掛かっている。  やはり今宵は満月だ。  しかも、やたらと大きい。  不意に男は節張った手で、目を乱暴に擦る。  酔いの所為で視界がおかしくなったのかと思ったからだ。  何故なら。 「紅い……」  男は勢い良く起き上がった。  確かに其処には、その月は、紅いのだ。  見れば見る程、その紅さを増す様にも見える。  唖然として、無意識に月へ手を伸ばした。  ――届く訳など無い。  分っている。  けれども。  もしもさっきの話が真実だとしたら……!  
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