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アイスクリームの宣伝をするならここだ。
講堂内で売り歩くのはミスコン部に許可されなかったため、講堂の出入口付近で売ることになっている。
俺が宣伝をし、みんなに「アイス食べたいな~」と思わせたところで、出口にはアイスが待っているという寸法だ。
これで俺達の勝ちは揺るぎ無い!
俺が密かに拳を握りしめ勝利を確信している間にも、アピールタイムは進んでいき、いつの間にか夏目の番となっていた。
夏目は前へと進み、舞台の中央に立つ。
まさか、毎年行われているこのミスコンを、今年は後ろから見ることになるなんてな。
『みなさ~ん、こ~んに~ちわ~!言わずと知れた端山の打ち上げ花火、二年六組夏目涼で~す!』
夏目が一言挨拶した途端、会場内は爆発した。
相変わらずとんでもない人気してやがる。
つか、打ち上げ花火とか自分で言うなよ。
確かにぴったりだけどさ。
『いや~、今日も冷えますね。現代の夏は寒いですっ。みなさん、この夏は風邪引いちゃったりしちゃったんじゃないですか?』
はぁ?何を言ってるんだこの女は。
この残暑の中寒いなんてことがあるわけ……いや、待てよ?
寒い……確かに寒いぞ!?
この不自然な冷え加減は……そうか、冷房だ。
今、講堂内は異常なほど冷房が効いていて、はっきり言って寒い。
畜生、これでは俺の作戦が台無しじゃないか。
『──それでは皆さん、高等部二年六組のおにぎり屋をよろしくうっ!』
いつの間にか、夏目のトークは締めに入っていた。
てか、おにぎりのアピールしかしてないじゃねぇかコラ!
『講堂の出入口のところで売ってるから、是非帰りに買っていってね~。あったか~い焼きおにぎりもあります!』
その瞬間、俺の頭の中の勝利の方程式は崩壊した。
今、会場内の人達はこの冷房によって、そして夏目の暗示によって、寒さを感じているはずだ。
こんな寒いところにいた人達が、夕方に近づき気温の下がり始めた外に出たところで、アイスを食べようとは思わない。
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