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放送室も生徒会室同様、クーラーはない。
故に夏目は、少しでも熱気から逃れるため、窓を全開にしていた。
その開け放たれた窓枠に足を掛け、上方に結ばれているであろうロープを右手で掴み、少年は夏目を見て笑みを浮かべた。
「待たせたな」
───────
俺は一度窓枠を蹴り、反動で一気に中へ降り立った。
「窓を開けっぱなしにしていたのが、運のつきだったな」
敢えて夏目と同じセリフを吐くが、夏目はよっぽど驚いたらしく何も言い返してくることはなかった。
いい気味だ。せめてそのまま学園祭が始まるまで大人しくしてやがれ。
……っと、今は急がなければいけないな。
呆然としている夏目を押し退け、ラジオ体操のテープを止める。
更に勝利宣言をすべく、マイクのスイッチを入れる。
『この勝負、俺の勝ちだ!安心してくれ、愛する端山学園の生徒諸君。たった今この放送室は解放された。皆は心置きなく、今日も健やかに学園生活を謳歌してくれ』
途端、校内でざわめきが起こる。
会長様の華麗な勝利宣言に皆驚いていることであろう。
先程まで言葉を失っていた夏目はようやく口を開いた。
「バリケードを無視して窓から来るなんて……」
「これが生徒会長の実力だ。さぁ、今日こそ生徒会室へ連行して反省文を書いてもらおうか!!」
こうして、俺は初めて夏目との勝負に勝利した。
夏目は今まで数々の問題を起こしておきながら、この日が初めての反省文指導となった。
「次は絶対勝つんだから!学園祭を楽しみにしてなさ~い!」
とか喚きながら、意外にも律儀に反省文を持って行った。
「明日生徒会に提出だからな~」
と会長としての忠告も忘れない。
だが、この時俺は予想もしていなかった。
夏目に勝つということが……
学園のアイドルに勝つということが、俺自身を追い詰めることになるだなんて。
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