14607人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはよ。どうした?随分早いな」
振り返って朝の挨拶をするが、田中さんの不審そうな表情は消えない。
「昨日私だけクラスの方行けなかったから、早く来て少しでも手伝おうかと……て、そんなことより、なんなのその格好は?」
なんなの。と言われましても、俺は今日普通に……あ。
「おいおい、なんてこった。俺としたことが自分の立場をすっかり忘れていた」
そんじゃま、テイク2ということで。
「僕小西じゃないよ、ハヤ丸君ダヨ」
片手を挙げ、夢見る少女田中さんに挨拶をし直す。
そんなお茶目な俺に田中さんは腹を抱え……あれ?軽く引いてる?
「いや……なんかもう、なんて言っていいか……あんたかわいいよ」
そりゃそうだ。今俺はハヤ丸君なんだから。
「まぁいいや。とりあえず、ちゃんとした答えを聞きたいんだけど……なんでハヤ丸君の格好で登校してるわけ?」
こんな俺でも見捨てずにちゃんと訊いてくれるだけ、俺の周りの人達は優しいんだろうか?
まぁ、田中さんも同じクラスだし、関係大有りなので話しておこう。
「なぁ、アフリカゾウとインドゾウの違いって判るか?」
「アフリカゾウの方が耳と牙が大きいんだよね?」
かなり意表を突いた質問をしたつもりなんだが、田中さんは戸惑いもなくあっさりと答えやがった。
「……その通り。暑いところに棲んでいる方が耳は大きくなる。逆に、寒いところに棲んでいる方が耳は小さくなるんだ」
「へぇ、そうなんだ。それで?」
「俺の耳を見てくれ。普通のキツネと比べると小さいだろ?」
「言われてみれば、頭の大きさの割には小さいかもね」
「つまり、ハヤ丸君はキタキツネだ」
「そうだったんだ?それはそれは、暑い中ご苦労様です」
それで?と目で続きを促してくる。
「雪国出身なので、アイスクリームのイメージに合うかと思って」
田中さんにハヤ丸君に掛かっているタスキの字を見せる。
『二年二組 アイスクリーム始めました』
最初のコメントを投稿しよう!