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鏡にうつっていたのは、ハチマキをしたキツネでも、男気溢れる生徒会長でもなく、セミロングの黒髪の少女……ぽく見える誰かだった。
その瞬間、俺は全てを理解──いや、諦めた。
これは、学園祭名物の女装という儀式だ。
罪の無い男子生徒の中から自薦他薦問わず生け贄を選び、一生残る羞恥という名の傷……もとい思い出をその生け贄の心に刻むという。
クソ、結構本格的じゃないか。
髪は勝手にエクステーションされ、顔には薄く化粧が施されてナチュラルに女の子っぽさが出されている。
なんだよこのくっきりした目元と艶やかな唇は。肌も白いじゃないか畜生。
昨日吉川が田中さんと話していたのは多分このことだろう。
二年二組の女子の力を結集して施された化粧は、十分すぎるほど俺を別人へと化けさせていた。
恐るべし、女子の顔面。
そして、十六人目のミスコン参加者ってのは多分、いや間違いなく……俺だ。
「それでは、私がミスコンに出て、アイスの宣伝をすればいいんですね?」
できるだけ高めの声を出し、できるだけおしとやかに喋ってみた。
「おっ、意外とノリ気じゃないか。さすが幸人!物分かりがいいね~」
ここで俺が逃げても、せっかくここまで準備されているんだ。
みんなに迷惑がかかってしまうだけだ。
必ず二組を勝たせると誓った以上、協力できることは何でもしてやるさ。
仮面だ。演じるんだ。下手に恥ずかしがってちゃぐだぐだになるだけ。こういうのは割り切るのがいい。この姿は本当の俺じゃない。ただ演じてるだけだ。だから恥ずかしくなんてないのさ。
よ、よし。やってやる!
「私、がんばりますね!」
今はもう、身も心も女に成りきってやる。
別に恥ずかしくなんてないもん!
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