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「僕は…伝えなきゃならないんだ」
そう、僕には大事な使命がある。
口伝の物語は歪みやすいように噂もまた直ぐに歪み、装飾される。
―――それは、彼の物語もだ。
だから今僕は伝えなければならないのだ。
真実の彼を、本当の物語を。
――世界に貶められたAの物語を。
脚立を駆け下り、僕は黴臭い書庫からはおさらばする。
片手には黒革製の本を
そして片手には……剣を持って。
全てはAの為、僕の知りうるAの為。
書庫を出るとベルベットからマーブル…大理石の敷かれた廊下に出る。
勿論、侵入者たる僕を排除しようと沢山の兵がそこにはいた。
床を蹴り、ブーツが音を立てる。
虫けらみたいに数ばかり居る兵の立てるガッシャ、ガッシャという甲冑の音が煩わしい。
三十六計なんとやら、逃げるが勝ち。
動きの面で軽装の僕のほうが有利だ。
僕は窓ガラスを叩き割り、身を投げ出す。
………全ては“A”の為に―――
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