769人が本棚に入れています
本棚に追加
「お待たせしました。ご注文がお決まりですか?」
「ああ、これを二つ頼む」
体制は崩さないまま、やや早足で此方へやってきた店員に、彼女は直接メニューを指差すようにして注文をした。
「は?お前、二つも同じもの食うのか?」
「おや、君もこの料理を頼むつもりだったのでは?」
「な――」
彼女が指差しているメニューは海老や貝などの海鮮ものがふんだんに扱われている4800円の料理(因みにここでの料理は全てタダなので、この値段表記に意味はない)。
ああ、確かに。確かに俺はこれを注文しようと『思った』さ。
だが、俺はそれを口にはしていないんだぞ?
なんでお前は、それがわかった?
「では、ご注文を承りました。お飲み物の方は?」
「私は水でいい。ほら、お前はどうする?」
「あ、いや……俺も、いい」
「了解いたしました。では、しばしお待ちください」
そう言い残して、来たときと同じきびきびとした動きで去っていく店員。
俺は化け物でも見るような視線を、遠慮も何もなくジッと彼女へと向けた。
なぜだ?何のトリックだ?まさか心が読めるとでも言うんじゃ――
「心が読めるんだ」
「――ッ!?」
「読心術が得意でね。今みたいに君が望んだメニューを当てるくらいのことなら造作もないよ」
「あ……ああ、そういうことか」
成る程。確かに視線や口元の動き、その他色々なものを判断材料とすれば、俺が選ぼうとしたメニューを察することくらいは別段難しいことじゃないだろう。
馬鹿な。俺は何をふざけたことを妄想していた?
超能力なんて、あるわけがないだろう。全く。
もし、奴が正真正銘人の心を全て理解することができると言うのなら。
俺はこの職業を廃業するしかない。
「お前はどうだ?」
「あん?」
「せっかく私の特技を話したんだ。君も自分の特技について教えてくれてもいいんじゃないか?」
「ああ――」
俺の特技、ね。
そんなもの、たった一つしかない。
「例えば、そこに海があるな」
「……は?あ、ああ。あるな」
窓際のテーブル。俺の右手にある窓から覗く青い海。
特技のことを聞いたにもかかわらず、いきなり海のことを話し出した俺。
それに対し、翠は少なからず戸惑いの色を見せる。
「お前は、海が青く見えるか?」
「……そうだな。青く見えるな。それがどうした?」
「ああ、俺も青く見える。では、ここで問題だ」
「なに?」
「海は、本当に、青いのか?」
最初のコメントを投稿しよう!