第一章:語りにて騙る

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「お待たせしました。ご注文がお決まりですか?」 「ああ、これを二つ頼む」 体制は崩さないまま、やや早足で此方へやってきた店員に、彼女は直接メニューを指差すようにして注文をした。 「は?お前、二つも同じもの食うのか?」 「おや、君もこの料理を頼むつもりだったのでは?」 「な――」 彼女が指差しているメニューは海老や貝などの海鮮ものがふんだんに扱われている4800円の料理(因みにここでの料理は全てタダなので、この値段表記に意味はない)。 ああ、確かに。確かに俺はこれを注文しようと『思った』さ。 だが、俺はそれを口にはしていないんだぞ? なんでお前は、それがわかった? 「では、ご注文を承りました。お飲み物の方は?」 「私は水でいい。ほら、お前はどうする?」 「あ、いや……俺も、いい」 「了解いたしました。では、しばしお待ちください」 そう言い残して、来たときと同じきびきびとした動きで去っていく店員。 俺は化け物でも見るような視線を、遠慮も何もなくジッと彼女へと向けた。 なぜだ?何のトリックだ?まさか心が読めるとでも言うんじゃ―― 「心が読めるんだ」 「――ッ!?」 「読心術が得意でね。今みたいに君が望んだメニューを当てるくらいのことなら造作もないよ」 「あ……ああ、そういうことか」 成る程。確かに視線や口元の動き、その他色々なものを判断材料とすれば、俺が選ぼうとしたメニューを察することくらいは別段難しいことじゃないだろう。 馬鹿な。俺は何をふざけたことを妄想していた? 超能力なんて、あるわけがないだろう。全く。 もし、奴が正真正銘人の心を全て理解することができると言うのなら。 俺はこの職業を廃業するしかない。 「お前はどうだ?」 「あん?」 「せっかく私の特技を話したんだ。君も自分の特技について教えてくれてもいいんじゃないか?」 「ああ――」 俺の特技、ね。 そんなもの、たった一つしかない。 「例えば、そこに海があるな」 「……は?あ、ああ。あるな」 窓際のテーブル。俺の右手にある窓から覗く青い海。 特技のことを聞いたにもかかわらず、いきなり海のことを話し出した俺。 それに対し、翠は少なからず戸惑いの色を見せる。 「お前は、海が青く見えるか?」 「……そうだな。青く見えるな。それがどうした?」 「ああ、俺も青く見える。では、ここで問題だ」 「なに?」 「海は、本当に、青いのか?」
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