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海は本当に青いのか?
そのあまりに意味不明瞭な問いに対し、彼女は驚くほど冷静にこう返答した。
「青いな」
その単純な答えに、俺もまたシニカルに笑って言葉を返す。
「本当に?」
「本当に、とは?」
「例えばお前は、何をもって『青』と判断している?何と定義して、それを『青』とする?」
俺は窓の外の海へ、視線を向けた。
「海が青く見えるといったな」
「ああ」
「では、今君が見ている海の色彩が、『青』だ。では、その視覚情報は万人に対して一致するものなのか?」
「……」
「もしかしたら君が見ている海の青を、君の言う赤色と同じ色彩で見ている人間が居るかもしれない。そうしてその人間がそれを『青』と表現した場合、それは果たして『青』なのか『赤』なのか?」
「私の言う『青』が、お前の言う『青』とは断言できない。そう言いたいのか?」
「ああ、そうだ」
「それで?」
「それだけだ」
「は?」
俺はグラスに入った冷たい水を一口飲み、ニヤリと口元を吊り上げる。
「意味はない。理由もない。ただ語っただけ」
「なに?」
「特技でも何でもない。ただ語るのが趣味であり、職業なのさ。俺は『語り屋』なんだよ」
『語り屋』。
その荒唐無稽な単語に、彼女は僅かに顔をしかめた。
語ることが仕事。
そんなものが果たして本当に存在するのか?
彼女は一度チラリと厨房の方辺りに視線を逸らし、そうして再び俺の方を見ると、こう口にした。
「そうか。では、そう言うことにしておこう」
「ああ、そうしてくれ」
「ところで」
「ん?」
「海は青い。私はそう言ったはずだが?」
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