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「は?」
彼女の言いたいことがよく理解できず、俺は思わず首をかしげる。
「正解は?」
「正解は……って」
こいつは本当に俺の話を聞いていたのだろうか?
確かに俺の話を聞く限りでは、海が本当に青いのか、そうでないのか、その答えは不明瞭なままで終了したが、俺の話はそれを明らかにすることを目的とした話ではない。
「視覚情報なんて、どうでもいい」
底の見えない黒い瞳を真っ直ぐにこちらに向けたまま、彼女が言葉を続ける。
「例えそれが私にとっての『赤』だろうと何だろうと、万人がそれを『青』と、海は『青』いと定義しているのならば、それは『青』だ。お前の言葉をそのまま返すのなら、語り屋。『青』は視覚情報で定義できない以上、海が『青』いと定義されているのならば、視覚情報など最早関係はない。それはあくまでも『青』であり、『青』でしかないんだよ」
「……」
俺は言葉を失ったかのように、彼女のその答えを黙って聞いていた。
賢いのか、それともただ単に屁理屈をこねるのが得意なのか、それとも彼女もただ適当に『語った』だけなのか。
わからない。
ただいずれにしろ。
「それにしても、腹が減ったな」
海が青かろうが、赤かろうが、俺たちの人生には全く関係がなく。
「早く料理が運ばれてこないだろうか」
彼女がそう愚痴をこぼしたように。
今俺たちの身体に影響を及ぼしているのは、ただ食欲と呼ばれる欲求だけなのだと。
それだけの、ことだった。
全ては、ただの、意味のない、『語り』なのだから。
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