769人が本棚に入れています
本棚に追加
――お待たせしました、と言う店員の言葉と共に運ばれてきた二つのお皿。
俺と彼女はそれを互いに特に何かを話すでもなく、視線を窓の外の海へ向けたり、はたまたこの巨大すぎるレストランの内装を眺めたりしつつ食していく。
味は、正直美味い。
確かに美味であるだろうし、4800円と言うこの皿に盛られた料理の量にしてはやや高めとも言える値段設定にも頷けるだろう。
しかし、ぶっちゃけた話、俺の好みの味ではなかった。
整えられすぎた物と言うのものを、俺は好かない。
どこか相手の意表をつくような、そんなアクロバティックな物の方が、面白みがある。
言ってしまえば、素人の作った失敗料理の方が、まだ俺の舌に合うと言うことなのだろうが。
流石にそれを言ってしまっては、このレストランのシェフに失礼と言うものだろう。
「つまらん料理だな」
「ぶっ」
何て思いをめぐらせつつ、俺は酷評を口にするのを避けていたのだが、俺の正面に座る翠は何の躊躇いもなくそうぶっちゃけてみせた。
そのあけすけな性格は嫌いじゃないが、少しは自重と言う言葉を覚えたらどうか。
「お前はどう思う?語り屋」
どうやら俺の呼び名は『語り屋』で固まったらしい。
まあ、別に構わないが。
出来れば『瀬茄』と言う名前を定着していただきたいものだ。
最初のコメントを投稿しよう!