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「さて、俺はそろそろ行くとしよう」
レタスの最後の一枚まで綺麗に平らげたお皿の上にナイフとフォークを丁寧に乗せると、俺は翠に目配せをしながら席を立った。
「そうか。私はしばらくここでゆっくりしているとするよ」
対し、彼女は視線は此方に向けないまま、先程注文した赤ワインを飲みながらそう呟く。
赤がよく似合うお方だ。
その分、海の青は全く彼女と相容れていない。
「んじゃ、また夜に」
「うむ、また夜に」
夜になれば、乗船者全員が大広間に集まる。
彼女と再び出会うとすればその時だろう。
また、『彼女』と出会うのもきっとその時だ。
ぴったり45度のお辞儀をして俺を見送る店員に軽く手を振りつつ、俺はそのレストランを後にする。
さて、次はどこへ行こうか。
時間もあるし、映画でも見に行こうか。
それとも、アミューズメントコーナーで懐かしのビデオゲームでも荒らしに回ろうか。
何でもいい。暇つぶしにさえなれば、何でもいい。
ただその過程で、また新たに人と出会えれば御の字。
まあ、ゆっくり考えるとしよう。
俺は長い廊下に一定のリズムで足音を刻みながら、1人シニカルに笑みを溢すのだった。
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