第一章:語りにて騙る

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「さて、俺はそろそろ行くとしよう」 レタスの最後の一枚まで綺麗に平らげたお皿の上にナイフとフォークを丁寧に乗せると、俺は翠に目配せをしながら席を立った。 「そうか。私はしばらくここでゆっくりしているとするよ」 対し、彼女は視線は此方に向けないまま、先程注文した赤ワインを飲みながらそう呟く。 赤がよく似合うお方だ。 その分、海の青は全く彼女と相容れていない。 「んじゃ、また夜に」 「うむ、また夜に」 夜になれば、乗船者全員が大広間に集まる。 彼女と再び出会うとすればその時だろう。 また、『彼女』と出会うのもきっとその時だ。 ぴったり45度のお辞儀をして俺を見送る店員に軽く手を振りつつ、俺はそのレストランを後にする。 さて、次はどこへ行こうか。 時間もあるし、映画でも見に行こうか。 それとも、アミューズメントコーナーで懐かしのビデオゲームでも荒らしに回ろうか。 何でもいい。暇つぶしにさえなれば、何でもいい。 ただその過程で、また新たに人と出会えれば御の字。 まあ、ゆっくり考えるとしよう。 俺は長い廊下に一定のリズムで足音を刻みながら、1人シニカルに笑みを溢すのだった。
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