プロローグ:舞台裏

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自己紹介をしよう。 俺は嘘吐きだ。 とにかくもう、人を騙すことを生業としている。 生まれてから実に19年間。 俺はそういう世界に生きてきた。 だから、お前ももしかしたら、既に俺に騙されているのかもしれないよ? 「……」 少々洒落た喫茶店。そこのテーブルに向かい合って座る俺と、十代後半と思われる若い少女。 ここの喫茶店は『そういう雰囲気』を意識しているのだろうか、アンティークの置物などがちらちら視界に入ってくるが、俺はそう言う装飾物にはあまり関心が無い。 ただ目の前の高級そうなカップに注がれたコーヒーの匂いだけが、今の俺の唯一の関心ごとであった。 そう、それはつまり。 「……」 今俺の目の前に黙って座っているこの少女にすら、関心がないと言うこと。 「黙ってばかりじゃ埒が明かないな。少しは俺の言葉に何かコメントを返したらどうだ」 「……正直な人ですね」 ブブッと、危うく口にしかけていたコーヒーを吹き出しそうになる。 こいつは俺の話を聞いていたのか? ここに来て漸く、目の前の少女を『対象』として認識することに俺は決めた。 流石に此方の言葉がまともに通じないような相手だと、関心のないまま会話を続けてはあらぬ方向に話が行ってしまいそうだ。 少しばかりちゃんと相手の様子を観察して、そうして言葉を投げかける必要がある。 「……茶色い髪をしているな。地毛か?」 「……いきなり話が飛びましたね」 話が飛んだ、か。まあ、それも無理はない。 なにせ、俺は今『初めてコイツの姿を認識』したからな。 今までコイツのことは、ただの少女としてしか認識していなかった。 関心を持たなければ、いくら目から視覚情報として脳に映像が行っても、その脳がその映像を理解しようとしないが為、それは結局『見ていないことと同義』になる。 「珍しいな。日本人だろう」 「アメリカンに見えますか?」 「いいや。名前はメアリー?」 「面白い人ですね、貴方は」 ふっ、と。小さく笑いをこぼす。 彼女が、ではなく、俺が、だ。 彼女はと言えば相変わらず、全くの無表情でただ一点を見つめるばかり。 俺を見ているのではない。 俺ではなく、『俺という存在がいる場所を見ている』。 要は、『俺を見ているフリ』をしているだけ。 実際には『見えていない』。 さっきまでの俺と同じだ。 この少女は、俺という『人間』に対しては何の関心も抱いていないのだ。
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