プロローグ:舞台裏

3/3
前へ
/59ページ
次へ
「それで」 「ん?」 力の込もらない瞳で『俺の方』を見つめたまま、彼女が口を開く。 「引き受けてくれるんですか?」 「嫌だね」 「有り難うございます」 「はぁ?」 「嘘なんでしょう?」 微笑を溢した。 冷たい、感情のない、ただ『微笑』と言う行為を行ったに過ぎない、そんな微笑を。 「まあな」 俺もニヤリと笑い返す。 「引き受けてやるよ。お前の依頼」 その歳で、悪魔に心を売ったか。少女よ。 お前はこれから先、二度と心から笑えないだろう。 二度と他人に関心を持てないだろう。 ああ、そうさ。今のようにな。 それでも尚、お前が得るものとは何なのかね。全く。 ――どうせなら、俺みたいに悪魔すら騙してみせろ。 「で、俺はどこに行けばいいんだ?」 俺の問いに対し、少女は無言で一枚の紙切れをテーブルの上に差し出す。 ……豪華客船、ね。 俺には似合わないな。 「了解した」 俺は心の中で肩をすくめつつ、そのチケットを受け取り、胸ポケットへとしまった。 そうして財布から一枚の札を出し、代わりにそれをテーブルに置く。 「じゃ、俺は先に行くよ」 言うが早いか、俺は残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、サッと席を立ち、背中を向ける。 その俺の背中に対し、彼女が囁くような声を投げ掛けた。 「ところで」 「ん?」 「なんで、そんな格好してるんですか?」 「……」 こいつは、驚いたね。 しかし俺はその驚きは顔に出さず、ただシニカルに笑ってこう言い返した。 「いい目をしてるよ、あんた」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

769人が本棚に入れています
本棚に追加