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「それで」
「ん?」
力の込もらない瞳で『俺の方』を見つめたまま、彼女が口を開く。
「引き受けてくれるんですか?」
「嫌だね」
「有り難うございます」
「はぁ?」
「嘘なんでしょう?」
微笑を溢した。
冷たい、感情のない、ただ『微笑』と言う行為を行ったに過ぎない、そんな微笑を。
「まあな」
俺もニヤリと笑い返す。
「引き受けてやるよ。お前の依頼」
その歳で、悪魔に心を売ったか。少女よ。
お前はこれから先、二度と心から笑えないだろう。
二度と他人に関心を持てないだろう。
ああ、そうさ。今のようにな。
それでも尚、お前が得るものとは何なのかね。全く。
――どうせなら、俺みたいに悪魔すら騙してみせろ。
「で、俺はどこに行けばいいんだ?」
俺の問いに対し、少女は無言で一枚の紙切れをテーブルの上に差し出す。
……豪華客船、ね。
俺には似合わないな。
「了解した」
俺は心の中で肩をすくめつつ、そのチケットを受け取り、胸ポケットへとしまった。
そうして財布から一枚の札を出し、代わりにそれをテーブルに置く。
「じゃ、俺は先に行くよ」
言うが早いか、俺は残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、サッと席を立ち、背中を向ける。
その俺の背中に対し、彼女が囁くような声を投げ掛けた。
「ところで」
「ん?」
「なんで、そんな格好してるんですか?」
「……」
こいつは、驚いたね。
しかし俺はその驚きは顔に出さず、ただシニカルに笑ってこう言い返した。
「いい目をしてるよ、あんた」
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