第一章:語りにて騙る

2/12
前へ
/59ページ
次へ
『豪華客船で行く、三泊四日の海の旅!船の中にはシアターに高級レストランに様々な施設が勢揃い!優雅な四日間を保証致します!』 「……なーんてね」 俺は眼前に広がる超巨大豪華客船……タイタニックを彷彿とさせるそれを見上げ、そんな煽り文句を頭に浮かべた。 無論、俺の創作である。 そんなお気楽な旅になるわけがない。 「いや、しかし……信じられないね、全く」 これだけの巨大な船だ。 大方、少なく見積もっても数百人は参加するものと思いきや、なんとなんと参加者は俺を含めたったの七人。 馬鹿げている。本当に馬鹿げているよ。 ……と、言うのは冗談。 実のところ、俺はこの旅のなんたるかを知っている。 要は、豪華客船をまるまる貸し切った身内旅行なのである。 その身内旅行に何で俺が参加できたか――、それも簡単。 俺が先日、例の少女から受け取ったあのチケット。 この身内旅行は、身内がそれと認めた友人のみ参加を許可されている。 つまり、俺はあの少女の友人として招かれているわけだ。 ……それにしても七人って。 どんだけ友達少ねえんだ?南斗一家ってのはよ。 まあ、しかし。今回の着目点はそこではない。 果たして――、つい二週間ほど前に死去したと言うその一家の長。 彼が遺した財産とはどれほどのものなのか。 想像も、つきやしない。 もし俺なら、その遺産の為に人一人くらい軽く殺せるな。 ……あんたも、そうかい? 俺は今回参加した人一人一人に挨拶をして回っている、ぴしっとしたスーツに身を包んだ中年の男性に視線を向ける。 「ん、君も今回はよろしくな。里柚(りゆ)ちゃんの紹介で来た瀬茄(せな)くんだね」 手を伸ばし、握手を求めるその男。 名を、南斗 孝子(こうじ)。 当然、南斗一家の遺産配当対象の一人。 「ええ。何かすみませんね。こんな豪華な旅……それも身内の旅に俺なんかが参加して……」 「いやいや、いいんだよ。僕は身内だけじゃ寂しいと思ったからね、こうして友人を呼ばせたのさ。里柚ちゃんは体調不良で欠席だそうだが、君は気にすることなく楽しんでくれたまえ」 ああ、そうそう。 この旅の企画者は、あんただったな。 南斗一家はこいつを含め、後四人。 となれば、この旅に参加している俺たち以外の部外者は僅かに一人。 くっく、と。 俺は声を殺して笑みを溢した。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

769人が本棚に入れています
本棚に追加