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『豪華客船で行く、三泊四日の海の旅!船の中にはシアターに高級レストランに様々な施設が勢揃い!優雅な四日間を保証致します!』
「……なーんてね」
俺は眼前に広がる超巨大豪華客船……タイタニックを彷彿とさせるそれを見上げ、そんな煽り文句を頭に浮かべた。
無論、俺の創作である。
そんなお気楽な旅になるわけがない。
「いや、しかし……信じられないね、全く」
これだけの巨大な船だ。
大方、少なく見積もっても数百人は参加するものと思いきや、なんとなんと参加者は俺を含めたったの七人。
馬鹿げている。本当に馬鹿げているよ。
……と、言うのは冗談。
実のところ、俺はこの旅のなんたるかを知っている。
要は、豪華客船をまるまる貸し切った身内旅行なのである。
その身内旅行に何で俺が参加できたか――、それも簡単。
俺が先日、例の少女から受け取ったあのチケット。
この身内旅行は、身内がそれと認めた友人のみ参加を許可されている。
つまり、俺はあの少女の友人として招かれているわけだ。
……それにしても七人って。
どんだけ友達少ねえんだ?南斗一家ってのはよ。
まあ、しかし。今回の着目点はそこではない。
果たして――、つい二週間ほど前に死去したと言うその一家の長。
彼が遺した財産とはどれほどのものなのか。
想像も、つきやしない。
もし俺なら、その遺産の為に人一人くらい軽く殺せるな。
……あんたも、そうかい?
俺は今回参加した人一人一人に挨拶をして回っている、ぴしっとしたスーツに身を包んだ中年の男性に視線を向ける。
「ん、君も今回はよろしくな。里柚(りゆ)ちゃんの紹介で来た瀬茄(せな)くんだね」
手を伸ばし、握手を求めるその男。
名を、南斗 孝子(こうじ)。
当然、南斗一家の遺産配当対象の一人。
「ええ。何かすみませんね。こんな豪華な旅……それも身内の旅に俺なんかが参加して……」
「いやいや、いいんだよ。僕は身内だけじゃ寂しいと思ったからね、こうして友人を呼ばせたのさ。里柚ちゃんは体調不良で欠席だそうだが、君は気にすることなく楽しんでくれたまえ」
ああ、そうそう。
この旅の企画者は、あんただったな。
南斗一家はこいつを含め、後四人。
となれば、この旅に参加している俺たち以外の部外者は僅かに一人。
くっく、と。
俺は声を殺して笑みを溢した。
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