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部外者、ね。
俺は俺の隣に立つ、茶色のベレー帽を被った背の低い人間にニヤニヤとした笑みを溢しながら話し掛けた。
「似合ってるぜ、相棒」
「……どうも」
透き通った声で小さく呟く。
今回俺が仕事をするに至っての協力者、名を恵(けい)。
中性的な容姿ではあるが、一応設定上、恵は男性である。
年齢はまだ15と若いが、持ち前の観察眼と、常に感情を乱さない冷静さで俺の仕事を助けてくれる。
……はず、だ。
「しかしまあ、何なのかね。どうせこんなでかい船を貸し切るなら、もっと人を呼ぶべきだろう。部外者がたった3人ってどーいうことだよ」
「2人」
「いや、3人。それでいい」
「そう」
……冷静なのはいいが、融通はきかない。
コミュニケーション能力も低いし、正直いきなり不安になってきた。
「……大丈夫なの?」
何の拍子もなく、問われる。
俺は数秒ほど沈黙し、一体何が大丈夫なのか考え、そうして理解した後、一度鼻を鳴らして答えを返した。
「当たり前だろう」
俺を誰だと思っていやがる。
「南斗 里柚は絶対安全。彼女には何も火の粉は降りかからない」
「……」
恵は一度訝しげに俺を見た後(とは言え、基本的に表情が無いので、何となく俺がそう思っただけだ)。
「そう」
と、俺から視線をはずして呟いた。
「まさか、信用してないのか?」
「信用される人なの?」
「そりゃないな」
ごもっともだ。
言い返す言葉もない。
「……と、そろそろ出発みたいだぞ」
見ると、南斗 孝子を先頭に、次々と今回の旅の参加者が乗船していくところだった。
俺たちもここで突っ立っている場合ではない。
彼らの後についていかないと。
「ま、安心しな」
「?」
俺はやや早足で船へと向かいながら、俺の背後をぴったりついてくる恵に、振り向かないまま話し掛けた。
「『大船』に乗ったつもりで、俺に任しとけばいい」
「口だけは上手いんですね」
「はっ、笑わせんなよ」
何を今更。
何てったって俺は。
「俺は、語り屋だからな」
騙り屋だからな。
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