第一章:語りにて騙る

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――船の中はその外観同様、有り得ないほどに豪華だった。 まずは天井。 薔薇を象ったガラス細工に覆われた電球が、均等に並べられている。 十字路に差し掛かると、まさかのシャンデリアだ。 本物のシャンデリアを生で見るのなんて何年振りだろうか? そして通路の壁には、何だか高価そうな絵画。 床にはこれまた高価そうな赤い絨毯が敷かれている。 全体的に洋風な雰囲気の漂う内装。 いや、それは外観からとっくにわかりきっていたことだが。 「では、瀬茄さまの部屋は此方を」 南斗 孝子に巨大な船の中を案内されること十数分、連れてこられたのはスイートルームを彷彿とさせる豪華な個室。 一人用と銘打たれている、どう見たって2人は軽く並んで寝れそうなベッドは、見た目が既にふかふかである。 見ているだけで眠くなる。 やばい。俺、四日と言わず一生この部屋で過ごしたい。 「それではごゆるりと。恵さまは此方になります」 言って、彼は俺に金色の鍵を手渡すと、俺の後ろに隠れるようについてきていた恵に笑顔で振り返る。 そうして、俺の部屋の向かい側の扉を指し、また金色の鍵を手渡した。 「食事は三食ご自由に。ただ旅の間の三回の夜には、互いの親交を深める軽い催し物をご用意しております。午後八時より大広間にて行われますので、その際にはお集まりください」 南斗 孝子は俺たちにそれだけ告げると、再び和やかな笑みを向けて、ささっとその場から去っていった。 俺はそれを見送り、彼の姿が完全に見えなくなったところで静かに口を開いた。 「……隙がないねえ、彼」 「……そういう人、なんですよ」 笑顔の下に、幾つもの感情と思考が詰め込まれている。 決して他人には悟らせない、厚い仮面。 まあ、別にただそれだけのことである。 悪意や、謀を巡らせている様な感じはない。 単なる、南斗 孝子と言う人間分析。 「手こずるかねえ」 「どうでしょうね」 俺は小さくため息をつくと、開いていた部屋の扉に手をかける。 「ま、とりあえず荷物置こうぜ」 「はい」
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