第一章:語りにて騙る

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ガチャリと、扉を閉める。 そうして振り返り、改めて部屋の内装を確認。 うん、実に素晴らしい。 ただダイレクトに床にゴロゴロ出来ないことだけが、玉に傷か。 カーペットは敷かれているものの、基本土足部屋だからな。 流石にその上に転がるのは、幾ら無神経なことに定評がある俺でも少々難しい。 俺はベッドの上に置かれていたリモコンを取り、壁に取り付けられている巨大液晶テレビの電源をつける。 チャンネルは3。 ニュースが流れていたので、キャスターの言葉を右から左に聞き流しつつ、俺は羽織っていた男物の上着を脱ぎ、ベッドの上に投げ置いた。 持っていた荷物も、あわせてベッドの上へ。 「さて」 舞台は、整った。 いよいよ俺の奏でる戯曲が開幕する。 ここからは恵と別行動。 さあ、精々楽しもうぜ。南斗一家。 「……まあ、まずは飯でも食うか」 時計を見れば時刻は12時を丁度過ぎるところ。 レストランはこの船に1つしかない上、朝、昼、夜に二時間ずつしか開く時間が定められていないので、もしかしたら誰かに会うかもしれない。 「それもまた良し」 俺は食事を取ることに決定すると、財布と携帯だけを持って部屋を出る―― 「おっと、めるめる」 ……と、その前に。 俺は一度ポケットにしまいかけた携帯を開き、ぽちぽちぽちとメールを打つ。 「これで準備よし」 さて、飯にありつくとしよう。 忘れずに金色の鍵を財布の中にしまい、俺は部屋の扉を開いた。 そうして廊下に出て、扉を閉める。 ガチャンと、鍵のかかる音。 当然のオートロック。 独りシニカルに笑う。 最高の舞台じゃねえか、全く。 「さあて、何を食べようかね」 フレンチか、イタリアンか、中華か、和食か。 恐らく何でも揃っているのだろう。 俺はテーブルに並ぶであろう素晴らしき料理の数々に想いを巡らせつつ、一定のペースで廊下を歩いていった。
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