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壱帷は死を覚悟した。
浅はかにもタンカを切って一年余り。
アテのない壱帷にとって、ただ生きる為の事にすら、行動が出来ない位衰弱していた。
山道の大きな桜の木におっかかって、もう2日が過ぎた。
元からあった金など無いに等しい物だった。
金稼ぎには、用心棒をするつもりでいたが、自分の細っこい体つきを見て周りには相手にされず。
けれど、どうしても汚い事には手を染めたくはなかった。
そこまで落ちたくはなかった。
けれど、周りは容赦なく牙を向けてくる。
殺されかけたし、盗まれかけたし。
一人で生きる事が、どれほど大変な事かを思わされた。
それでも…。
壱帷は唇を噛んだ。
嫌だ。
アイツに負けたくない。
生きたい。
死にたくない。
「ほらよ」
突然握り飯が目の前に現れた。
脅え、警戒して顔をあげると、直ぐ前で男性がしゃがんでいた。
にんまりと笑って、飯と水を差し出す。
「食えよ。大丈夫さ、毒はねぇ」
そう言って男性は壱帷に飯を押し付けた。
そして何故か正面に腰を下ろす。
壱帷は飛燕を握って男性を睨みつけた。
男性の腰にも、得物があったからだ。
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