長州より、桜木壱帷の暴走

9/11

3677人が本棚に入れています
本棚に追加
/440ページ
気付いた男は、刀を取って自分から離れた所に置いておく。 それでも壱帷が手を付けないのを見て、三つあったものの内、一つを食ってみせる。 「ほらな?毒なんざ入っちゃいねーよ?」 竹筒をとって、中身の水を少量飲んでみせてから同じ様に飯の隣に置く。 壱帷はじとりと睨み上げた。 男は、にっこにっこと笑っていた。 そして男の手前には……。 遂に壱帷は我慢出来ず、白い握り飯を口に突っ込んだ。 甘い、しょっぱい、美味しい。 涙が出そうになるのを必死に堪えて噛む。 そして、有りがたさを知る。 最後に水を全部飲み干して、壱帷は息をついた。 幸せ……。 見ず知らずの男の前で、不覚にも緊張をとく。 一方男は、手荷物の中をあさって何かを探す。 そして探し物を見つけた男は、壱帷にそれを手渡した。 「銭はないが、干飯ならあるぞ」 干飯を渡した男は、それだけ言って立ち上がる。 刀も、腰にさして。 「じゃあな。さっさと家に帰るんだぞ」 ひらひらと手を振って、去って行く背中。 壱帷はそれを放心状態で見つめるが。 「あっ!アンタ名前は!?」 男は立ち止まって壱帷に答えた。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3677人が本棚に入れています
本棚に追加