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気付いた男は、刀を取って自分から離れた所に置いておく。
それでも壱帷が手を付けないのを見て、三つあったものの内、一つを食ってみせる。
「ほらな?毒なんざ入っちゃいねーよ?」
竹筒をとって、中身の水を少量飲んでみせてから同じ様に飯の隣に置く。
壱帷はじとりと睨み上げた。
男は、にっこにっこと笑っていた。
そして男の手前には……。
遂に壱帷は我慢出来ず、白い握り飯を口に突っ込んだ。
甘い、しょっぱい、美味しい。
涙が出そうになるのを必死に堪えて噛む。
そして、有りがたさを知る。
最後に水を全部飲み干して、壱帷は息をついた。
幸せ……。
見ず知らずの男の前で、不覚にも緊張をとく。
一方男は、手荷物の中をあさって何かを探す。
そして探し物を見つけた男は、壱帷にそれを手渡した。
「銭はないが、干飯ならあるぞ」
干飯を渡した男は、それだけ言って立ち上がる。
刀も、腰にさして。
「じゃあな。さっさと家に帰るんだぞ」
ひらひらと手を振って、去って行く背中。
壱帷はそれを放心状態で見つめるが。
「あっ!アンタ名前は!?」
男は立ち止まって壱帷に答えた。
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