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たったひとつの願い。
幸せな家族が欲しい。
たったそれだけ。
1.ベッタ。
雌ベッタである私は、観賞する価値すらない地味な魚。
憧れてた。色鮮やかな雄に。
憧れてた。店の外の世界に。
願いは現実と化するのは唐突だ。
眠る私はしらずのうちに買われていった。
目が覚めると鮮やかな雄が目の前を泳いでいた。
私が起きるのを待っていたようだ。彼が近づいて来た。
「やっと起きたんだね。」
びっくりして逃げようとした。しかし雄の方が圧倒的に早く、追いつかれた。
「同じ水槽にいるんだ。いつまでも無視できないだろ。逃げるな。たのむ。」
彼の体が少し震えていた。
自分が今どこにいるか確認してみた。
広い広い終わりが見えないような水槽。
ずっと。一人で。
そんな世界にずっと生きてきてたっていうの?
自分が来たことで寂しさは免れるのかしら?
「…凍花。これが私の名前。」
彼はこの急な自己紹介に戸惑った。
「これからよろしくね。」
そう言って、私は彼ににっこりとほほ笑んだ。
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