プロローグ~塔京の街にサヨナラを

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「アナタニシマスヨロシイデスカ?」 女の人の声が暗闇のなかで響く。 「はい?なんですか?」 これは、普通の反応だと思う。 だって、前フリも脈絡もなくイキナリこんなことをいわれたって‥‥ 大体「私を何にするのか」の部分が抜けているので意味が全く分からない。 ‥‥というか、此所はどこ? 真っ暗な部屋だけど、壁の気配が全くない、空気の流れがないから部屋の中だろうと思われるが‥‥どこだか見当もつかない。 床もあるようなないような‥‥しかし靴底から伝わる感触は硬質なものである。 大体なんで此所にいるのやら? 記憶が全くない‥‥。 記憶障害があるとは考えづらいが‥‥(考えたくないが‥‥)。 きっと夢だ、うん、悪い夢だ。 理解できないんだから、悪い夢で片付けてしまおう。 夢で片付けてしまうなんて、愚の骨頂、なんて人間らしい考えなのだろう。 (流石がに今となっては、これくらい言いたくなってしまう。) 「アナタニシマスヨロシイデスカ?」 妙に機械的な女の声。 日本語のアクセントは完璧だ‥‥確かに完璧だ。 でも、完璧すぎて人間味がない。 そういう意味で機械的だ。 プロのアナウンサーでも流石にこれは無理だろう。 その声は私の頭に直接響く様な気がする。そのせいか、女の人が目の前にいる気もするし、はるか彼方から響きわたっているかの様にも聞こえる。 ‥‥というか、私の質問に答えていない‥‥。 「アナタニシマスヨロシイデスカ?」 ‥‥三度目‥‥。 「アナタニシマスヨロシイデスカ?」 ……………。 「アナタニシマスヨロシイデスカ?」 ……………………………。 「あぁ!勝手にすれば!」 私は答えてしまった。 そう、答えてしまったのだ‥‥ 答えなければよかったと、後悔するのはそのずっと後だった。 「フフフフッ、キマッタキマッタ」 女が笑ったような気がした‥‥。
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