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「もしもし、水樹?」
「…隆也ぁ」
水樹は弱々しい声で俺の名を呼ぶ。一瞬ドキリと胸が高鳴るが普通じゃない水樹にはっと気付いた。
「水樹!?どうした?」
水樹は何も言わずただずず、と鼻をすする音が聞こえる。そしてかすかだが雨の音も聞こえる。最初はこっちの雨の音だと思ったが、確かに携帯から聞こえてくる。
「水樹、今どこだ?つか…泣いてる?」
しばらくは水樹は何も言わずに黙っていた。しかし沈黙も長くは続かなかった。
「隆也、私、どおしたらいいかわからないよ、どおしよう…」
やっぱり俺の勘は当たっていた。水樹はずっと溜め込んで、結果的にこういうことになってしまった。俺は今いる場所を聞いて急いで家を出た。
傘を差し、ばしゃばしゃと音を立てながら走る。傘を差しててももう意味がないほど阿部は濡れていた。しかしそんなこと、阿部の頭にはないだろう。雨のことも、濡れていることも、今日のことも。ただ頭の中にあるのは水樹のことだけで。やっとのことで着いた公園。そこにはぽつんとベンチに座っている水樹の姿があった。俺は傘を捨て、すぐに水樹の元に駆け寄り抱き締めた。傘も差さず、びしょ濡れになっている水樹の体は当然冷たくて。
「このバカ!なんで傘差さないんだよ!」
ぐっと抱き締める力を強くし、本当バカだよ、お前。と呟いた。
「隆也、隆也…。ごめんね、隆也濡れてるよ?風邪引いちゃうよお…」
弱々しい声で水樹は言って、肩を震わし涙を流した。雨と一緒に流れるから本当に泣いているかなんてわからないが、確かに泣いているだろう。
「ごめんな、俺が話聞いてやれなくて」
「ううん、隆也は何も悪くないよ…」
一向に止まない雨。もうそろそろ水樹の体力も限界だろう。帰るぞ、と言おうとした。すると水樹は俺の胸板を弱々しく押し、俺は水樹から離れた。
「あのね、隆也。きいてほしいの」
「ん、何?」
当然なんのことかわからない。が、水樹の目は真っ直ぐと俺を見ていた。
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