満月

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 今日は、なんて良い、天気なんだ。 今日の夜空には、綺麗な満月が視れそうだ。 ああ。 こんな、良い日には、彼女の良い声が聴こえてきそうだ。  行ってみようかな。 彼女も、多分こんな、良い日には必ずいるはずだ。 彼女とあった、あの日も、こんな日だったから…。  僕は、疲れていた。 こんな、くだらない世の中に。 生きることに、疲れ果てていた。 何時も、何時も。  そんな、気が滅入っている会社帰り。 夜の外は、僕の気持ちに反して、憎たらしく綺麗な満月が顔を出していた。 死にたいくらいだ。  いっそのこと、満月をバックに墜落するってのも、良いかも知れない。 いつの間にか、僕の足は高い所目指して勝手に動き始めた。  どうやら、僕の体も納得してくれたようだ。 しかし、僕の体は、不意に動きを止めた。  「何もないんだって。 ここには。 意味はないんだって。 僕には。 真実とはね。 それだけで、美しいんだ。 離さないよ繋いでたいの僕は僕の手を…」 聴いたことの無い、歌だった。 声だった。綺麗な声。 なのに、僕は聞き惚れた。 一瞬で。 なんとも、馬鹿らしい。 そろそろ、三十路近くの独身おっさんが。 馬鹿正直に、惚れてしまった。 「惨めだなぁ」 呟く。その呟きは、自分自身に言った物では、ない。 誰しも、聞いてなどいないのに、精一杯声を出して歌っている彼女をだ。 ララーーラーーーーー。          □
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