14人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当に伝えたい想いだけはうまく伝わらないようにできていた」
何処かの偉い人が残した言葉らしい。
まったく笑ってしまう。
まるで、今の僕を象徴しているかのようだ。
さて、今日も彼女の声を聴きに往こう。
そのもどかしさに、抱かれぬように。
彼女の声を聴いている時くらいは。
彼女の前に居る時くらいは。
せめて、僕は笑ってみようとしよう。
そう思って僕は、またあそこに立ち寄った。
だけど、そこには彼女が居なかった。
今日は休んだのかな?
「おう、おっちゃん。
あんたも、今日あの子の歌聴きに来たくちかい?」
と、僕と同じ様に、彼女の歌を聴きに来た男が訊いてきた。
「なんかな、あの子。
たまたま通り掛かった男が連れてってしまったんだよ」
「は?」
「あー。つまりだなぁ、プロデュースだっけな?
それされたらしいんだわ」
もうここには居ないし、来ない。ってこと。
と、男は付け加えた。
それから、僕は彼女を探す日々となった。
実を言うと僕は彼女の名前すら、知らなかった。
だから、まずパソコンで新人アーティストで探し始めることにした。
「…案外、簡単に見付かったなぁ」
近頃の音楽サイトと言うのは、まったくもって便利なものだ。
と調べながらしみじみと思った。
なんと!気になったアーティストの歌を試着できるのだ!
え?当たり前だって?
マジデカッ!?
まぁ。それのおかげと言えば、おかげなんだけど。
彼女は、色んな新人アーティストを押さえて、8位になっていた!!
だから、すぐに見つけることが出来た。
パソコンごしだから少しノイズが入ってたけど、やっぱり、彼女の声は綺麗だった。
すぐさま僕は、彼女が行う生ライブのチケットを買うことにした。
ライブなんて久しぶりだった。
子供の頃、はまってたビートルズのライブに行ったきり、ライブなんて行ってなかった。
僕は、知らず知らずの内に鼻唄を歌っていた。
もちろん彼女の歌。
それから長いライブまでの日数は、早々と過ぎていった。
ライブでの君は、笑ってた。
そして、望んでた。
ライブで聴いている僕も、叫んでた。
君を、望んでた。
そんな僕の声も、かき消すほどに膨れるこの熱気を感じながら。
無味を悟る。
彼女は行ってしまった。
遠い所に
彼女が往ってしまった。
その先に浮かぶ。
光の粒を僕は、何時までも、魅つめていた。
ヲーヲーー。
ヲーヲーヲーーー………
最初のコメントを投稿しよう!