人は死ぬとどうなる?

4/4
前へ
/44ページ
次へ
「どこにも行けないんだよ。無くなるか、そこに在るかだ」   よくわからない。   師匠はいろいろなことを教えてくれはするが、こんな哲学的 なというか、宗教がかったことをいうのは珍しかった。   「だから、隣にいるんだ」   人間にとっての幽霊とか、そういうもののことを言っている のだと気づくまで少し時間がかかった。   「そこでハトに食われてるヤツだって、無くなるまで在って、  それで、終わりだ」   え?   目をこすったが、なにも見えない。   「すごく弱いやつだ。もう消えかかってる。ハトはなにを  食ってるか分かってないけど、食われてる方は『食われた  ら、無くなる』って思ってる。だから消える」   「わかりません」   たいていの鳥はふつうにヒトの霊魂が見えるんだぜ、 と師匠はつぶやいた。   いつもハトが集まっていたところで、むかし人が死んだと 言うんだろうか。   「ほんの少し離れてるだけなのになあ」   ハトに食われるより、桜に食われた方がマシだ。   酒くさいため息をつきながらそう言ったきり、師匠は黙った。 芝生の向こうではバカ騒ぎが続いている。   「師匠は自分が死ぬときのことを考えたことがありますか」   いつも聞きたくて、なんとなく聞けなかったことを口にした。   「おんなじさ。とんでもない悪霊になって、無くなるまで  在って、それで、終わり」   ワンステップ多かったが、俺は流した。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加