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「どこにも行けないんだよ。無くなるか、そこに在るかだ」
よくわからない。
師匠はいろいろなことを教えてくれはするが、こんな哲学的
なというか、宗教がかったことをいうのは珍しかった。
「だから、隣にいるんだ」
人間にとっての幽霊とか、そういうもののことを言っている
のだと気づくまで少し時間がかかった。
「そこでハトに食われてるヤツだって、無くなるまで在って、
それで、終わりだ」
え?
目をこすったが、なにも見えない。
「すごく弱いやつだ。もう消えかかってる。ハトはなにを
食ってるか分かってないけど、食われてる方は『食われた
ら、無くなる』って思ってる。だから消える」
「わかりません」
たいていの鳥はふつうにヒトの霊魂が見えるんだぜ、
と師匠はつぶやいた。
いつもハトが集まっていたところで、むかし人が死んだと
言うんだろうか。
「ほんの少し離れてるだけなのになあ」
ハトに食われるより、桜に食われた方がマシだ。
酒くさいため息をつきながらそう言ったきり、師匠は黙った。
芝生の向こうではバカ騒ぎが続いている。
「師匠は自分が死ぬときのことを考えたことがありますか」
いつも聞きたくて、なんとなく聞けなかったことを口にした。
「おんなじさ。とんでもない悪霊になって、無くなるまで
在って、それで、終わり」
ワンステップ多かったが、俺は流した。
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